FAR EAST GADGET MAGAZINE

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コラム デザイン探訪 プロダクト

名作椅子ってなにがすごいの?2. 柳宗理 バタフライスツール

今回は柳宗理バタフライスツール(以下、バタフライ)について考えてみたいと思います。
バタフライは、言わずと知れた柳にとっての代表作。それどころか、日本の工業デザインの代表作とさえ言っても過言ではありません。
でも…実は…ここだけの話…正直なにが良いのかわかんないって方、けっこういらっしゃるのではないでしょうか?
安心してください。それが普通です!

工業デザインはその名のとおり、エンジニアリングと芸術の交わりにある概念です。したがって見た目だけで評価することは困難な場合が多く、それなりの知識が必要になります。それを、今回はできるだけわかりやすく解説しようと思います。

バタフライを観察してわかる合理性と独自性

バタフライスは2つの成型された合板でできています。2つの合板は同じ部品で、互いに支え合うような形で成り立っています。これがバタフライのネーミングの由来です。
構成としては非常にシンプルですが、その外観は複雑な曲面に成型され、独特な意匠になっています。成型合板でつくられた椅子は数多ありますが、そのどれにも類似するものがありません。
バタフライのデザインの肝は、この構成の合理性と意匠の独自性にあります。

カンチレバーとトラスによる理想的な構造

バタフライは、これ以上ないのでは?と思える理想的な構成をしています。
まず、座面にあたる面は中心部を固定部としたカンチレバー(片持ち)構造になっています。これにより、適度な弾性=心地よい座り心地を確保しています。
ここで、ごくオーソドックスな”コ”の字形のスツールを想定し、比較してみましょう。
”コ”の字形スツールに上から荷重をかけると、上部はたしかにしなりますが、同時に左右の脚部にも荷重が分散してしまいます。バタフライに比べると硬い印象になるでしょう。
また、”コ”の字形だと剛性が弱く、左右に揺れるのを防ぐために板厚を厚くするか、補強材を入れる必要があります。それに対し、バタフライはトラス(三角構造、下図では省略していますが固定金具を含んで)になっているため、安定した座り心地でありながら板厚を薄くすることが可能です。

成型合板だからできる大胆な曲げ

バタフライの合板部材は「7」の字状に大きく曲げられています。これは曲げながら接着する成型合板だからこそできる造形で、ここでも素材の特長を最大限に引き出す設計をしています。
成形合板は当時アメリカの工業デザイナー、イームズなどが先行していたそうですが、まだまだ新しい技術だったそうです。
イームズの椅子という先行事例が念頭にあったからこそ、オーソドックスな形を避け、技術的挑戦を必要とするような複雑な形状を試みたのかもしれません。

イームズラウンジチェア&オットマン

手仕事、アジアを感じさせる意匠

そしてもうひとつ特徴的なのはこの独特な曲面。柳宗理の手がけたデザインはどれも共通の印象があり、他でもない柳っぽさがあります。
柳宗理のデザイン手法は、試作して手を動かすということを非常に重視していたそうです。 確かに何も計画せずにまず削ってみると、丸っこい造形になりがちがったりします。そして、エッジの立った造形などは先に計画していないとできない形であることに気づきます。
頭の中で考える、あるいは視覚的なデザインにとどまらず、いわば触覚的にデザインしたのは、やはり日常的に触れる「道具」としての感覚を重視していたからでしょう。
民藝(つまり父、柳宗悦の影響)からの手仕事の痕跡を残す流れが、ドイツ、イタリア、アメリカでもない日本的、アジア的デザインとして海外でウケたのかもしれません。

柳宗理デザイン エレファントスツール

ちなみに、試作は時間と手間がかかるため非常にコストがかかります。それゆえ、重要な工程であるにもかかわらず、最も圧縮されがちです。
デザイナーは皆、質を上げたいけれども予算の関係で泣く泣く…ということが多いのではないでしょうか。
その点、柳宗理は採算度外視でやっていたため何度も倒産の危機に瀕していたとか。

合理的設計にこだわった柳の想い

柳宗理は良いデザインでも庶民の手が届かなければ意味がないと考えていたそうで、父、柳宗悦の民藝運動にはやや反感をもっていたとか。だからこそインダストリアルデザイナーを志したのです。
このバタフライに使われている成型合板もまた、安価に木製品を製造するための技術です。
しかしながら、現代においてはバタフライも庶民が気軽に買える価格ではありません。
そのことについてはどう思っていたのでしょう?晩年の柳宗理は大量生産大量消費社会に懸念していたそうですから、高くても良いデザインを社会に訴えることによって、ひとつでもフォロワーが増えることを期待していたのかもしれません。

名作椅子シリーズ、前回の記事はこちら。

名作椅子ってなにがすごいの?1. リートフェルトのレッドアンドブルーチェア

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愛知名古屋で活動するプロダクトデザイナー。家電、スーツケース、蛇口、コンピュータ周辺機器、クレーンなど幅広い分野を経験。