FAR EAST GADGET MAGAZINE

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このデザイン何がいいの?歴史を知ればわかる名作の理由。無印良品 『白 の中の白 展 ―白磁と詞(ことば) という実験。』を見て

陶器の「白」を始点として、物事の本質である「素」に迫る無印良品の展示「白 の中の白 展」を観覧してきました。とくに難解だと個人的には思っている陶磁器のクラシックデザインについて学びがありましたのでここで紹介します。

コロナの影響で残念ながら訪問した時間帯はショールーム内に入れませんでした!以後ガラス越しの撮影です。

余談

東京にGO TOしてきました。本当は先日いただいたCSデザイン賞の授賞式のためにチケットを取っていたのですが、案の定コロナの影響で中止に…。しかし、せっかく渡航費が安いので観光がてらいろんなものを見てきました。

ブラックアウトステッカーが「CSデザイン賞」 優秀賞を受賞しました。

「白 の中の白 展」とは?

銀座に、ATERIER MUJI GINZAという無印良品が企画する展示スペースがあります。そこで偶々開催されていたのがこの「白 の中の白 展」です。
20世紀初頭から今日に至るまでの、モダニズムの名作デザインと世界的に評される白い陶器のみを集めた展示です。

展示会のポスター
カジミール・マレーヴィチのデザインしたティーセット

で、こんなものが展示されています。カジミール・マレーヴィチのデザインしたティーセットです。これが名作デザインとして評価されています。

明らかに使いにくそう!

「…わからん!」と思われるでしょう。当然です、無理にオシャレだなとか、高尚だとか、ブラボーとか思わなくても大丈夫です。その他にも、もちろん美しい造形やアイディアはわかるけど、まあフツーだな…と思われるものがたくさん展示されています。

カッコいいけど、こんなの他にもたくさんあるじゃない?
すごく普通じゃない?

「北園克衛」って誰?

ところで展示会のタイトルですが、変なところにスペースが入ってるな、と思われたかもしれません。それはこの展示でもフォーカスされている詩人北園克衛の詩からとったものだからです。

私が北園克衛の詩を知ったのはタイポグラフィーの本なのですが、どういうものかというと…

小泉均 著 タイポグラフィの読み方 より

これには私、目から鱗、衝撃を受けました。
意味ではなく、音の響きやリズム、想起する抽象的なイメージそのものに着目し、純化させた芸術だったのです。それまでこんな詩は見たことありませんでした。

この詩が載っているのは小泉均 著 タイポグラフィの読み方 という本です。グラフィックにおける造形の深い話が載っていて非常に面白いのでおすすめです。

展示会場にあった北園の詩。カメラマンの腕が悪すぎて全然写っていませんが…

一方、デザインや絵画の世界でも、これに非常に近しいものがありました。
デ・ステイル、ロシア構成主義、シュプレマティズム、バウハウス…これらは現代にまで続くモダンデザインの源流たちです。北園もまたこうした流れの一翼をになった芸術家・デザイナーだったのです。

北園克衛

1902年、現在の三重県伊勢市朝熊町に生まれる[1]関東大震災のあと、大正末期から昭和初期にかけて華ひらいた前衛詩誌文化の中心で活躍した、いわゆるモダニズム詩人のひとり。日本で初めてのシュルレアリスム宣言(上田敏雄上田保 (英文学者)と連名)を配布したことからシュルレアリスムの詩人とされることが多いが、シュルレアリスムからは短期間で離脱し該当する作品も少量にすぎない。むしろバウハウスの造型理念を視覚的に享受した影響が大きい。

wikipediaより

このあたりのモダンデザインについて触れた記事を過去に書きましたので良ければこちらもご一読ください。

名作椅子ってなにがすごいの?1. リートフェルトのレッドアンドブルーチェア

「白」に美を見出したのがモダニズムの始まり

この「白 の中の白 展」では、白い陶器がまさにモダニズムを象徴する格好の素材であったことが表現されています。

展示の解説冊子によると、白い陶磁器の生産技術は18世紀初頭にすでに生まれていました。しかしながら、すぐさまそれらは装飾を施されにたのです。「白」というものが装飾を引き立たせるための「素地」としてしかとらえらなかったのが当時の価値観であり、無地の白い器が登場するのは実に200年後、20世紀初頭のことになります。

さて、先ほどの意味不明なティーセットですが、デザイナーのカジミール・マレーヴィチという人は、白いキャンバスに白い正方形を描いた究極の抽象画などが有名です。絵というよりも、絵画を通した哲学、価値観の提示ですよね。

カジミール・マレーヴィチ 白のカンバスの上の『白の正方形』(1918年)

何もないのではなく、白がある。そのものをありのままに見据えるという姿勢は意外にも20世紀初頭に初めて獲得したものであり、その後の社会に多大な影響を与えます。
私たちが今回の展示品やモダニズムの名作たちを見て、正直あまりにも普通で、何が優れているのかわからないと思うのは実は当然のことです。20世紀初頭に見いだされたモダニズムの影響があまりにも大きすぎ、その後に生まれた私たちにとっては完全に内面化され、もはや当たり前のことだったからなのです。
無印良品の提示する「ふつう」が人々に広く受け入れられたのも、実はこういった歴史的背景なしには実現しなかったかもしれません。

さて、ここまで北園の詩や、モンドリアンの絵画、レッドアンドブルーチェアをご覧になったみなさんにはもうお解りだと思います。マレーヴィチがティーセットで何を試み、なぜ評価されているのかを。

『白 の中の白 展 ―白磁と詞(ことば) という実験。』

期間:2020年3月13日(金) ― 10月18日(日)
時間:10:00 ― 21:00
開催場所:無印良品 銀座 6F ATELIER MUJI GINZA Gallery1
入場無料
主催: 無印良品
企画協力: 永井敬二
空間デザイン: 熊野亘
グラフィックデザイン: 東川裕子
施工: HIGURE 17-15 cas
協力: 山口信博、羽原肅郎、知識たかし
企画・運営: 株式会社良品計画 生活雑貨部
企画デザイン担当・無印良品 銀座 ATELIER MUJI GINZA

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愛知名古屋で活動するプロダクトデザイナー。家電、スーツケース、蛇口、コンピュータ周辺機器、クレーンなど幅広い分野を経験。