FAR EAST GADGET MAGAZINE

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レッドアンドブルーチェア
コラム デザイン探訪

名作椅子ってなにがすごいの?1. リートフェルトのレッドアンドブルーチェア

レッドアンドブルーチェア

名作椅子ってありますよね?コルビュジエ、イームズ、ヤコブセン……
なんか格好いいとは思うんだけど、別に格好いいイスなんて他にもたくさんあるし、正直なにがそんなに評価されてるのかわからない…デザインはわからん…そう思っている方、実は多いのではないでしょうか。
そんな苦手意識を克服してほしいと思い、今回は、名作イスを解説してみようと思います。

ジャーナリズムがみんなを遠ざけている?


”わからないけれど非常に権威的に見えるもの”を拒否したくなる気持ちはよくわかります。これは私を含め、デザインに関わる仕事をしている多くの人にとって大きな課題です。

一方で、デザインという行為は誰しも無縁ではいられない、非常に身近なものでもあります。
私たちは社会生活を送る上で他者からの視点を意識しないことは難しいです。
そのため、毎日服の着こなしを考えたり、髪をセットしたり、話し方や、歩き方に到るまで…セルフイメージをデザインする必要に迫られます。
本来はとても身近なデザインという行為が、なぜ自分には関係のない高尚なものと捉えられてしまうのでしょうか?

映画や美術と同様、デザインにもジャーナリズムが存在します。高度になりすぎたジャーナリズムは世間一般からは理解し難くなり、結果として業界そのものが拒絶される原因にもなっています。
ジャーナリズムは歴史や社会との関係においてその作品の価値を批評するもので、それはあくまで「ある価値観」において評価されているに過ぎません。
つまり、それは私たち個々人の日常における”デザイン”と直接関係のある話ではないのです。
ですから、基本的には好き嫌いで語れば良いと私は思っています。
しかしながら、自分では気がつかなかった価値やその良さを知ることで、世の中で行われる行為の客観的意味を理解できるようになるかもしれません。自分の生活をより良いものにするヒントがあるかもしれません。

そもそもわかりやすく説明された資料が見当たらない…

私自身、今回取り上げる作品の価値が最初からわかっていたわけでは当然ありません。
”名作デザインは何が良いとされているのか?”それがどうしても理解したくて、大学生の頃、図書館の本でデザイン史を独学したりもしました。
ではそれでわかったのかといえば、ただの知識オタクになったにすぎませんでした。大学を出て、プロのプロダクトデザイナーとして働きながらその価値を徐々に理解していった、というのが本当のところです。
そうしたわけで、名作デザイン、とくに家具についてはしっかりと納得のいく解説がされている資料が少ないように思います。

レッドアンドブルーチェアをよく観察してみよう。

前置きが長くなりましたが、名作イスはなぜ名作と呼ばれるのか?その理由を解き明かしていきたいと思います。

今回取り上げるのは、”レッドアンドブルー”です。有名なイスですから、見たことのある方が多いと思います。
どう見ても座り心地が良さそうには見えませんよね。私が通っていた大学にこのイスが置いてあったので知っているのですが、実際座り心地は特別良いわけではありません(とくに日本人には大きすぎます)。
しかし、座り心地がいいかどうかだけで判断してしまうのは非常にもったいないことです。
一体このの価値はどこにあるのか?なにかすごいんでしょうか?まずは特徴を観察してみましょう。

レッドアンドブルーを横から見たところ
レッドアンドブルーを上からみたところ。なかなか新鮮な視点ですね。

肘置きをのぞいて、フレームはすべて同じ正方形断面の角材を使用しています。それを水平垂直に組み、その上に長方形のフラットな板材でできた座面と背もたれが乗っています。
色は背もたれが赤、座面が青、角材の端面が黄色、フレームが黒です。
非常に単純な造形のみで構成されていますが、”単純”だから”簡単”だと思ってはいけません。
部材と部材のつなぎ目が一切見えないことに気づきましたか?さらに言えば、非常に華奢な印象で、通常の家具で用いられるような、上からの重量を支えるのに適した構造をあえて採用していません。
黒い角材が3つ交差している部分に注目すると、上から力をかけると下にずり落ちてしまいそうな印象です。
現実空間に実在していながらどこか非現実的、観念的な姿を目指したことがはっきりと読み取れます。
座面や背もたれにしても、普通は座り心地や強度を考慮し曲げるなどして曲面にするものですが、あえて薄い板なのです。それも赤と青の象徴的な色使いで。

デ・ステイルという文脈 今の”当たり前”は100年前の”革新”

このイスの作者で、オランダのヘリット・トーマス・リートフェルトは、デ・ステイルという芸術運動に参加していました。

デ・ステイル

デ・ステイル (De Stijl) は、1917年テオ・ファン・ドースブルフTheo van Doesburg, 1883年 – 1931年)がオランダライデンで創刊した雑誌、及びそれに基づくグループの名称。「デ・ステイル」とはオランダ語様式英語:The Style)を意味する。
その理念は、グループの重要なメンバーでもあるピエト・モンドリアンが主張した新造形主義(ネオ・プラスティシズム、NeoplasticismNieuwe beelding)であった。しかし、リーダーであるドースブルフの考えは、絵画よりもむしろ建築を重視し、1924年には、垂直と水平だけでなく、対角線を導入した要素主義(エレメンタリズム)を主張した。そのため、両者の対立は決定的となり、モンドリアンは、1925年にグループを脱退する。

(Wikipedia)
モンドリアンといえばとにかくこんな抽象絵画が有名ですね。
1925年作 ドゥースブルフは斜めを取り入れた。

モンドリアンの絵を見たことのない人は、まずいないでしょう。
それまでの芸術・工芸と決別し、一切の装飾を排した抽象的造形を目指したのがこのデ・ステイルです。テオ・ファン・ドゥースブルフがこの運動を立ち上げたおよそ20世紀初頭はまだまだ大量生産の時代に入ったばかりで、そうした時代にふさわしい、指針となる意匠を模索している時代でした。
今は当たり前に見えますが、100年前、装飾性を排し、縦と横の線、原色だけといういわば最小限の要素で表現するという手法・思想はとても新しかったのです。
こうした造形・思想は後のバウハウスにも大きな影響を与えています。
私たちが当たり前のように思っている現在の本質を追求するシンプルでミニマルなデザインは最初からあったものではなく、こうした芸術運動の中で発見、精製されていったものなのです。
ちなみに、このモンドリアンとドゥースブルフ対立のくだりでついていけなくなる人が多いかと思いますが(笑)、建築を重視し対角線を導入したというのは、物理的な問題として三角構造が合理的であることを踏まえているのでしょう。

トラス構造

ヘッリト・トーマス・リートフェルトの”レッドアンドブルー”および、シュレーダー邸は、デ・ステイルの思想をプロダクト・建築として顕現させたことに大きな意味があったのです。

最後に、この記事を書くために色々調べていたら下記の論文を見つけました。レッドアンドブルーおよびリートフェルトの造形の奇跡がわかりとても興味深いですよ。

レッド・ブルーチェアの寸法分析による構成的特徴の抽出

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愛知名古屋で活動するプロダクトデザイナー。家電、スーツケース、蛇口、コンピュータ周辺機器、クレーンなど幅広い分野を経験。