FAR EAST GADGET MAGAZINE

プロダクトデザイナーによるコンセプチュアルなプロダクトデザインを紹介するメディア

伏せてアラームを止める時計
デザイン探訪 プロダクト

懐かしい”直感的インターフェース”の目覚まし時計

こういうアイディア、なんか懐かしいな〜!と思ったので紹介します。
伏せる動作でアラームを止める目覚まし時計です。

これを観ればだいたいわかります。

動画を見ていただければだいたい理解できると思います。転がしたり、盤面を伏せるといった操作でアラームを止めるアラームクロックです。
ボタンを押すなど、細かいことが苦手な方には良いかもしれません。利用シーンとしてはキッチンやアウトドアなど、ややラフな扱われ方をする場合を想定しているようです。

ころころ転がりやすい形状です。
伏せた状態
キッチンでの使用を想定したカット

アドバンスデザイン全盛時代を彷彿とするインターフェース

個人的には、この伏せてアラームを止めるという操作方法に懐かしさを覚えました。
私が学生だった2000年代は”アドバンスデザイン”がブームでした。
アドバンスデザインとは、今現在できるものではなく、10年後などの将来を想定して実現できるであろうデザインを提案するというものです。デザインがモノの将来像を率先して提示して、社会を牽引していこうという機運が高かったのです。デザイン雑誌AXISは頻繁にメーカー各社のアドバンスデザインを特集していたものです。
そして、将来実現できるものといえば、それはほぼ情報機器を指していました。
情報機器のデザインといっても単に形だけの提案をするのではありません。ありとあらゆるシーンで活躍できる新しいジャンルの情報機器を次々に提案していました。
当時はガラケー、ノートパソコンが最先端の時代でしたが、それらはどんどん画面が大きく、筐体は薄く小さくと、いわゆるデザインする”シロ”がなくなっていき、それと同時に、画面の中、ユーザーインターフェースがプロダクトデザインの課題としてどんどん注目されてきました。
まさにこのユーザーインターフェースこそが、この時代におけるプロダクトデザインの一大テーマであったと言えると思います。
デザイナー(と私をはじめデザイン学生)たちは、より直感的に、使いやすくを追求していくうちに、ユーザーインターフェースは単に画面の中で完結するものではなく、モノのありよう全体で考えるべきものだという地点にいたり、多様なセンサーを用いて物理的な方法で操作するという提案が出てきたものです。
MITメディアラボのタンジブルビットとか…懐かし〜!

当時画期的アイディアだったものが、今では当たり前のようにこのような雑貨に搭載されるようになったことを思うと、確実に世の中は進んでいるのだなと遠い目をしてしまいます。

デジタル版もあります。
デジタル版のほうは宣材の画像がとてもセンスいいですね。
スポーツシーンでの使用を想定したカット。非常にわかりすく的確です。

デザイナーはビジョナリーになれなかった?

その後、iPhoneの登場によって世の中はガラリと変わりました。アップルはデザインが優れているともてはやされましたが、どちらかといえばそれは優れたビジョンのことを指していたように思います。
それからというもの2010年代は、産業を牽引していくのはデザイナーではなく起業家やエンジニアであるという認識が強くなったように思います。
また、時を同じくして、デザイン業界のムーブメントも深澤直人氏の仕事をはじめとした内省的な傾向が強くなったように思います。
良い悪いということではありませんが、世の中に必要とされるポジションにはい続けたいものです。

この時計は中国深センのstyle pieというメーカーのプロダクトです。グッドデザイン賞も受賞しています。

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愛知名古屋で活動するプロダクトデザイナー。家電、スーツケース、蛇口、コンピュータ周辺機器、クレーンなど幅広い分野を経験。