FAR EAST GADGET MAGAZINE

プロダクトデザイナーによるコンセプチュアルなプロダクトデザインを紹介するメディア

ブラックアウトステッカーfor Mac16mm
製品開発リポート

直感をかたちにする、伝わる言葉にする 〜ブラックアウトステッカーのモノづくりから学んだ大切さ

こんにちは、ファーイーストガジェットです。

ノートPCを開いたある日、キーボードの文字が全部消えてたらどうしますか?代表の私、白川は…目を疑って一度パタリと閉じるかもしれません。

でも、そんな製品が、今私たちのモノづくりの一端を示すアイデンティティーとなっています。

デザイン事務所をしている傍ら、Appleプロダクト関係のアクセサリー製品を多く制作、販売しているのが、私たちファーイーストガジェット。毎度のAppleのリリースはドキドキする瞬間です。

普通のメーカーのようにも見られる私たちですが、実際は片手で数えても指が余る、インディーズバンドのような小さなユニットです。それぞれ拠点が名古屋と東京なので、打ち合わせも基本LINEの雑談の流れの中だったり。しかし、小さいものの、雑誌に多く取り上げていただいたり、ごく一部で私たちのコンセプトに共感が広がっている実感も増しつつあります…そんな私たちの源流がもう少し見せられたらなと思い、リリースした製品のエピソードを紹介したいと思います。

今回は数あるプロダクトの中でも最も支持をいただいている製品、「ブラックアウトステッカー」を紹介します。

ブラックアウトステッカーfor Mac 15mm
ブラックアウトステッカーfor Mac 15mm

ブラックアウトステッカーの発売は2015年ですが、MacBookの新モデルが出るたびにアップデートをし、ユーザーさんもリプレースをしていただけるなど、継続的なヒットが続いています。

Macをもっとシンプルにする、ブラックアウトステッカー

ブラックアウトステッカー製品ページ

ブラックアウトステッカーをご存知ない方向けに、まず説明。ブラックアウトステッカーは、Macのキーボードを文字通りブラックアウト、真っ黒の無刻印キーボードのように変えるステッカーです。一見こんなものにニーズがあるの?とよく思われますが、実際貼り付けてみると、その異様とも言える静けさ、ミニマルな美しさに惚れ込む層が一定数いらっしゃいまして、ブロガーさんやプログラマーさんのようなハードにキーボードを叩く層に特に支持者がいらっしゃいます。

(中の人も本職の社内でこれを見られ、「身近なサイコ」と呼ばれ恍惚を覚えたのだとか…)

別プロダクトのサポートがトリガーに

というわけで、ある意味存在そのものがニッチとも言えるブラックアウトステッカー。そんな製品ですから、実は初めから確信めいて企画したものでは全くありません。他の製品づくりの副産物として生まれた、アドリブのような製品なのです。きっかけは、私たちの記念すべき第一弾商品だった「Ai/Psショートカットステッカー」でした。

Ai/Psショートカットステッカー製品ページ

Ai/Psショートカットステッカーfor Mac Ver.2.0

Ai/Psショートカットステッカーは、名前の通り、イラストレーター(Ai)やフォトショップ(Ps)のキーボードショートカットが手元で見ながら覚えられるようにグラフィックとして配置したステッカーです。もともと本職デザイナーの私がショートカットを覚えるのに苦労したことから、きっと誰にもニーズはあろうと思いつきで製品化したもの。リリース時こちらもそこそこ話題を生み、大手にマネされるなど驚くような経験もありました。

MacBookシリーズ用に開発した当製品。製品化するということはもちろんユーザーサポートが必要ですから、それ以来、Macの新モデルが発表されると、私は真っ先に自分たちのプロダクトがこれに対応できているかを調べ、対応を続けています。

「あれ?これって…」ダイニングバーで誕生

そんな当時、2015年、MacBookのキーボードに大きなアップデートがありました。キーサイズが大きく、薄くなったバタフライキーボードの採用です。

キーが大きくなって、現行のショートカットステッカーでは対応できない。また、タッチも変わるであろうことを見越して、その作りから再度検討し直さなければならない。そのためAi/Psショートカットステッカーも作り直しを決意しました。

特に、ステッカーをどうカットするか、タッチや耐久性に最も影響があるコーナーのアール(丸み)をどのくらいとるかの検討にはいくつものパターンで試作。

手近にあった素材で検証していたわけですが、初期段階ではにプリントすることはなく、黒の、無地のシートでたくさん試作をしていたのです。

業務用機器を自宅に置いてプロトタイピングを繰り返しています

そんな折、ちょうど発売と同時に新型MacBookを買ったサポートメンバーがいたので、試作品の検証のため、第一の拠点である名古屋のダイニングバーに集合。黒のステッカーを貼り付けるうちに、「あれ?これって…」とメンバーから声が漏れました。

そのマットでクールな表情、それでいてキータッチを変えない手触り…惚れ込んだメンバー達が、目の前のこれについて熱く議論を始めたのです。

元々、キーボードに無地のステッカーを貼れば無刻印になるというアイデア自体は私にもうっすらありました。しかし、ミニマルな佇まいを提案できることはもっともだとしても、私にはそんなキーボードは使えないし、大したニーズがあるとも思っていませんでした。しかしそれが形になった瞬間、確信めいた反応が現れ、私にもなんとなく唯一無二の存在感を感じられたのです。結果、現行プロダクトのアップデートのための時間が、新プロダクトのための時間にもなり、その場で商品開発にかかることを決めました。

(ちなみに偶然にもかかわらず、使用した素材もこのときのものがベストで、その後施試作を重ねましたが、そのときの素材を超えるものは見つかりませんでした)

正直、当時の私は売れなくてもそれなりに注目はされればいいかな程度に考えていました。しかし、結果としてブラックアウトステッカーが一番のヒット商品となっているわけですから世の中さらにわからないものです。

ネーミングやメッセージにも製品づくりと同じ手間を

単純なモノも商品化にはそれなりに試作・検証に時間をかけるファーイーストガジェットですが、実はそれと同等の時間、ネーミングやコピーライティングを始めとするテキスト中心のコンセプトワークにも時間をかけるのも我々の特徴です。この辺りは竹内が主体となる仕事です(この記事も、どれだけ手を入れられていることか…)。正直、ただの真っ黒なシールとして売ることもできる製品ですが、だからこそ、それがどれだけ価値があることなのかを徹底的に表現することが必要だと考えています。ユーザーをリードするというよりは、これに何かピンと来た人に共感と尊敬を込めて、選んだユーザー自身が誇りに思えるような、個人個人の哲学の中にこのプロダクトを選んだ理由を装備していただけるようなビジュアルとネーミング、テキストの用意を心がけています。

劇場で芝居がはじまる瞬間の暗転を体験したことはあるでしょうか。感覚が遮断される、ブラックアウトするその時、あなた自身のスイッチも静かに切り替わる感覚があるはずです。

初期のパッケージ。現在はほんの少しデザインが変更されています。
パッケージを開くとキーボード一覧表がついています。ステッカーは完全に黒く潰れて切れ目がわかりませんね(笑)

ブロガーさん、プログラマーさん、ミニマリスト…想像以上に広がったユーザー層

そんな経緯でブラックアウトステッカーはリリースされました。とはいえ、ニュースサイトで話題にもなりたい下心も隠せない我々ながらこの製品はそこまでリリースが取り上げられずかなりのスロースタート。多少頭を抱えながらも、少しずつ反響の兆しが見えたのは、ニュースサイトよりも、キーボードを実際に個人で酷使される目利きのブロガーさんたちでした。

当時の記事

MacBookのJISキーボードを無刻印にできる「Blackout sticker for Mac」が格好良すぎる。 | ガジェットショット

MacBookのキーボードをシンプルに。ブラックアウトステッカーでJISキーを無地に(USも対応) | トバログ

Macのキーボードを極限までシンプルに!鍵盤を真っ黒に染め上げるステッカー「Blackout Sticker」 | モノグラフ

ステッカーを貼ったミニマルな佇まいに評価をいただく声が。この製品の価値が、少しずつ自分たちの中でも実感が高まったのでした。反面、リアルな反響も聞くことができ、「キーの位置がわからなくなって不安」といった声には即座に専用の壁紙データを用意するなど、利用者とのコミュニケーションで改善する体験に至ったのも、この製品が初めてのことで、今までとは違う潮流を感じたのでした。

少しずつWeb上でのクチコミが広がっていく中で、ギークの皆さんの目にも入るようになり、特にタッチタイピングが当たり前のライターさんやプログラマーさんにも届いていきました。キーの保護にもつながるということで、そこに価値を見出す方が多くいることも発見でした。今では多くの方々が、Macを買い替えるたびにブラックアウトステッカーを貼り直すことを1つのルーチンにしていただいています。

MacBookのキーボードを無刻印化する「ブラックアウトステッカー」やっぱオススメ | モバイルプリンス

下記の記事では、著名なプログラマーさんの愛用機の写真でブラックアウトステッカーが。敬虔なMOTHERファンであるメンバーの竹内は思いがけず無刻印化Macが目に飛び込んできて、いたく感動したようです。

寝食を忘れプログラムのことを考える職人肌! 『MOTHER2』を作ったハル研究所社長・三津原敏氏 | Red Bull

ブラックアウトステッカーfor Mac16mm
ブラックアウトステッカーfor Mac16mm

もうちょっと進化できそうです

その後も新型Macの発売に合わせてブラックアウトステッカーは更新を続けています。

iMac Proの発売時には、テンキーまで無刻印化したブラックアウトステッカーも発売。製品ラインナップに関し、いつも多くの声もいただく中で、話題性・採算性も鑑みながら拡充しています。また、ファーイーストガジェットは名古屋をデザイン、東京にメンバーがいて、ユーザーとなり得る方に常にお会いしています。特にブロガーさんからは様々な声をいただき、次のアップデートにつながるアイデアも生まれています。

さて、一定のコンセプトを表現し、それが皆さんと共有できるものとなったブラックアウトステッカー。その世界観をキープしながら、もっとその層が広がる進化を試みていますので期待してください。今後、ファーイーストガジェットのことをちょっとだけ覚えておいてもらえると嬉しいです。

ブラックアウトステッカー製品ページ

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