FAR EAST GADGET MAGAZINE

プロダクトデザイナーによるコンセプチュアルなプロダクトデザインを紹介するメディア

アレックス・イスラエルとコラボレーションしたリモワのスーツケース
デザイン探訪 プロダクト

【追記あり】高級品だからこそできる 美しいスーツケース

ドイツのRIMOWAから発売された美しい色彩のスーツケースのご紹介です。
一見シンプルにみえるデザインにも一筋縄ではいかない秘密が隠されています(と思います)。

RIMOWAといえばアルミ製シェルで有名なスーツケース界のトップブランド。ひとつひとつが合理的に作られた、非常にドイツらしいブレない設計思想が特徴的です。
スーツケースは、プロダクトデザインとして語られる側面がある一方、ファッションとしての側面もあるユニークな存在ですが、RIMOWAはそのスーツケース界の中でも極めてプロダクトとしての姿勢が強いブランドです。
そんなRIMOWAですが、今回はアーティストのアレックス・イスラエルとのコラボレーションということで、少しファッション寄りなモデルを出しました。

何と言っても特徴的なのはその色彩です。シェルの部分の青空と夕日の中間のような非常に美しいグラデーションと、その色に合わせた各部材のパステルカラーが非常に現代的でキャッチーです。

RIMOWAのサイトより

美しいグラデーションをどうやって表現しているのか?

ただのグラデーションじゃん?俺でも思いつくじゃん、などと思うなかれです。
アルミにグラデーションを施したものってあまり見かけたことありませんよね?

アルミの着色方法はいくつかありますが、最も多いのはアルマイト(酸化皮膜に染料を吸着させる方法)や塗装だと思います。
しかしアルマイトは均一に色がつくためグラデーションにはなりません。
塗装ならたしかにこのようなデザインが可能ですが、問題はこれが「量産品」であるということです。

塗装はほぼ手作業になってしまうため、単純なデザインでない限り「同じものをつくる」ということが非常に難しいのです。
多少違っててもわからないんじゃないの?と思われるかもしれません。
では、どこまでOKでどこからがNGなのか…これを判断できるのはデザインの責任者だけです。
デザインの責任者がひとつひとつ検品するのも現実的ではありません。
設計する人と製造する人が違う、という点が工芸品と工業デザインの大きな違いです。
こういった曖昧さのある製品を製造する場合は、あらかじめOKとNGの見本をつくるなどしてある程度誰でも判断できるようにするものですが、
さすがにこのグラデーション模様は指示が難しそうです。

同じグラフィックを量産するといえば、印刷です。
しかし、シルク印刷では凹凸のある表面は難しく、さらにはパッド印刷インクジェット印刷も回り込んだ側面まで印刷するのは不可能です。

シルク印刷(クラフトワーク)

パッド印刷(パッド印刷.com)

RIMOWA x Alex Israel

高級品だからできる奥の手!?

おそらく正解は「転写」かと思われます。
色々な方法がありますが、水転写と呼ばれる方法は水面にインクやフィルムなどを浮かべその上から成形された部品を上手く置いて表面に貼り付けるという具合です。
ひとつひとつ手作業で、職人によって加工されます。
もちろんある程度の以上の数になると機械化もありますが、それでも機械が安定して加工できるように調整するのは決して簡単ではありません。
以下は機械による水転写の様子です。

水転写加工の様子 見事な腕前ですね!

以前とあるメーカーでは、スーツケースの加工原価が転写だけで¥3,000かかっているとお聞きしました。
もちろん同じ加工方法ではないと思いますが、それでもかなりのコストがかかる加工方法なのです。
RIMOWAのような高級ブランドだからこそ使える手なんですね。

【追記】アルマイト加工でした!

読者のデザイナー先輩諸兄から指摘がありました。大変ありがとうございます。
答えはアルマイトでした!
確かに転写には問題もあります。
転写の場合、フィルムがはがれ落ちないようトップコートを施したりしますが、
スーツケースのように激しく使用される物ではやはり不十分です。それにアルミ独特の質感が若干損なわれてしまいます。

こちらの記事に加工方法についての記載があります。

FASHION HEADLINE

コラボスーツケースは、ロサンゼルスの空を描いた絵画作品「Sky Backdrop」と「Untitled(Flat)」をデザインに落とし込んだグラデーションカラーで、ピンクブルーと、ピーチブルーの2色展開。定番のアルミニウム製スーツケース「Original Cabin Plus」をベースに、ボディにはアルマイト加工という革新的技術で着色を施した、アートピースのような見た目である。ホイールやライニングの配色、またアレックス・イスラエルの横顔をモチーフにしたラゲージタグなど、細かなディテールに遊び心が散りばめられている。

アルマイトといえば、希硫酸を貯めた槽にアルミ部材を浸す方法がごくごく一般的ですが、グラデーションアルマイトの加工例もありました。

株式会社清田アルマイト

量産品の採用実績もありますね。

NEC(日本電気株式会社)

他にも多様な加工方法があるようです。

株式会社カツシカ

グラデーションをつくるには薬剤を吹き付ける方法などが予想できますが、やはり品質管理が難しそうです。
他に転写アルマイトという記述もありますが、昇華性インクと書かれていますのでインクジェットのような方法だとすると回り込んだ面まで加工するのは難しいです。
まだまだ奥が深く、謎が多いトピックです。

FAR EAST GADGET MAGAZINE
愛知名古屋で活動するプロダクトデザイナー。家電、スーツケース、蛇口、コンピュータ周辺機器、クレーンなど幅広い分野を経験。