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いまや化石?「ペーパーモック」という技術
かつて、デザイン検討のためのモデルをスチレンボードを使用して製作していた時代がありました。ペーパーモックと呼ばれるものです。つい10年前くらいまではプロダクトデザインの現場で盛んにおこなわれていた手作りのモックアップも、今では3D-CADから3Dプリントという破壊的イノベーションによって熟練の技術もいらずよほど正確なモデルが手間をかけずとも入手できます。ペーパーモックは建築業界は言わずもがな、プロダクト業界でも、家庭用プリンターなどのある程度大きくて箱型のものの検討には今でも現役の手法ですが、今回ご紹介するのは別にそういうわけでもなく。ほとんど趣味の域のような内容です!
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スチレンボードって何?
「スチレンボード」とは、発泡させたポリスチレンを板状にして紙で挟んだものです。軽く、そこそこ頑丈でありながらカッターで簡単に精度の高い加工できるのが特徴です。ホームセンターでも工作用途として売られています。厚みは1mm、2mm、3mm、5mm、7mmとバリエーションがあります(もっとあるかもしれません)。サイズは、私が知る限り最大2000mm×1000mmというものがあります。私はかつてこのような大きなスチレンボードを用いてATMや、クレーンのキャビンなどを製作したことがあります。
ポータブルトイレのペーパーモックをつくってみよう
今回つくるモックアップは、以前デザインしたポータブルトイレのコンセプトモデルです。
ポータブルトイレは、ベッドからトイレまで移動するのが難しい方のために任意の場所に設置できるトイレです。大抵ベッドサイドに置かれるのですが、トイレではない空間で用を足すのは誰しも抵抗があるのでは?と思っていました。せめてトイレらしい個室感を、という狙いでパーティションを展開することができるというデザインです。また、トイレとして使用しないときはベッドサイドテーブルやソファになるというものです。
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可動部が多いので、どうやって作ろうかと考えるのもまた楽しいですね。
型紙をプリントアウト
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CAD図面をプリントアウトして型紙にします。昔は手描き図面から作っていたんでしょうね。大変だ…!型紙を貼り付けるにはスプレーのりが便利です。一度貼ったら取れない超強力タイプや再剥離可能なタイプなどがあります。再剥離タイプの場合ノリが残ってしまうので隠れる面側に型紙を貼るのがコツです。
スチレンボードを加工する
型紙を貼ったらスチレンボードを切っていくのですが、まっすぐ垂直に切るのにはそこそこ技術がいります。いきなりハードルが高い。まっすぐ切れるように姿勢や刃の角度、力の入れ方などをある程度練習して身体で覚える必要があります。そしてよく切れるカッターを使用しないとスチレンや紙がささくれてしまい、きれいにカットできません。少しでも切れ味が鈍ってきたと感じたら新しい刃を出しましょう。それともう一つ、一気に切ろうとせず上面の紙、スチレン、下面の紙というように3回にわけて切ることで美しく切ることができます。
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スチレンボードは当然大きな平面をつくるのが得意な素材ですが、2次曲面もつくることができ、ぐっと表現力が高まります。
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凹み面であれば、隠れる面(凸になる面)のほうに細かくカッターでスジ入れをしていきます。このときオモテ面の紙まで切ってしまわないように注意が必要です。凸の面が欲しい場合はウラ面の紙を剥がすだけでもいけます。もっと小さなアール曲面ならスジ入れを入れるなどします。
※今回つくったモデルの曲面はカクカクですこしぎこちない雰囲気になってしまいました。スチレンボードの種類によっては、このように紙が硬くきれいに剥がれないものもあります。
エッジになる部分でパーツ同士を接着する際、スチレンボードの端面が露出しないよう、接着部分を斜め45度にカットします。慣れればカッターでできますが、難しければサンドペーパーで削ります。
いちいち貼り合わせるスチレンボードの厚みを考えて切り出す必要がないところが、もうひとつの45度カットの良い点です。45度カットをしない場合、コーナーで貼り合わせる部材同士では、どちらかがもう一方の板厚分小さく図面を引いておく必要があります。貼り合わせの技術的にはハードルが低い方法ですが、これがかなりの頻度の凡ミスを誘発します。
接着には「スチのり」
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スチレンボードの接着にはなんと専用の接着剤があります。その名も「スチのり」。すぐに乾いてくれるので作業性が良いのが特徴です。画材屋さんで建築模型のコーナーで売っています。しかし、スチのりが無くても意外と速乾性木工ボンドでも対応できます。
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この複雑な形が貼り合わせたときにピタッときれいにできるととても気持ちいいです!エッジ同士がぴったり一致するように、貼り合わせの際にマスキングテープでしっかりと固定します。木工でボンドが乾くまで圧力をかけるのと同じ要領ですね。マスキングテープは、貼る前に何度か衣服などで貼り剥がしして適度に粘着力を弱めておきましょう。そうしないと、剥がすときにせっかくきれいに作ったスチレンボードの紙を傷めます。
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3次曲面だってつくれないこともない
3次元曲面をもつ部品はスタイロフォームなどの発泡材を削って製作するのが通常ですが、この座面クッションのような形状はスチレンボードを貼り合わせたものをベースにしたほうが早いです。紙を剥がしてサンドペーパーで丸めていきます。
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異素材との組み合わせもできます
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パーティションの支柱はテレスコピック構造を想定しているのですが、さすがにこの1/5スケールで可動までできる構造は手持ちのアイテムでできなかったので四角断面のプラ棒を使用しました。
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しっかりと強度が出てきれいに仕上がりました。
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木製の部分は今回実際の木材を切削加工でつくりましたが、別に木目を印刷してスチレンボードに貼れば良かったなと後から思いました。それに木目の方向が間違ってるし…。
完成
ついに完成です!ポイントになるところだけ解説してきましたので、サラっとできているように見えるかもしれませんが、実際には1~2日かかっています。画像があまりきれいでないのが惜しいですが、そしてモデル自体もそこまできれいではありませんがしばしご観覧ください。
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改めて見直したアナログ製作の価値
ペーパーモックづくり、いかがだったでしょうか。あまり知られていない、プロダクトデザインのディープな世界の一部をご紹介しました。
ペーパーモックをはじめとして、アナログにモデルを作って検討するスタイルは、産業ベースでは廃れた技術になりつつあります。しかし、所詮人間も、開発する製品も物理世界のもの。そのモノの良し悪しを感じるには、自分の手を動かして作りながら身体に覚えさせるという過程があって然るべきです。生産性の向上も必要ですが、質を担保するには丁寧な仕事が欠かせないと個人的には思います。
ビジネスとしてはオワコン?だが、ホビーとしての可能性はある!
ペーパーモックは「プロダクトデザイン産業遺産」と言ったら大袈裟かもしれませんが、残していくべきものだと思います。現状はといえば、いかんせんプロダクトデザイナーというのがそもそも希少種なうえに、この業界には比較的ネットなどで発信するカルチャーが浸透していません。実際、ペーパーモックをネット検索しても見事にほとんど出てきませんでした。このままでは近い未来に失われてしまう…!
ペーパーモックは、発泡材から削り出したりするより断然気軽だし、プラモデルより自由度が高い。ホビーとして生き残るポテンシャルは十分あるのではないかと私は思っています。そんな普及活動をしていけたらな、とぼんやり思っている近頃です。