FAR EAST GADGET MAGAZINE

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宮本茂樹の製作した椅子
イベント・展示会 デザイン探訪

展覧会「椅子の神様 宮本茂紀の仕事」家具モデラーという仕事

日本における家具作りの第一人者、宮本茂紀氏の仕事を振り返る展覧会が東京LIXILギャラリーにて開催されています。デザイナーと非常に関わりが深い、モデラーの仕事がよくわかる展示になっています。

”家具モデラー”という仕事

東京出張のついでに何か展示会はやっていないかと思い見つけたのが、京橋にあるLIXILギャラリーで開催されている「椅子の神様 宮本茂紀の仕事」です。

宮本氏は、中学卒業後家具職人に弟子入りし、以来、たたき上げで家具職人として活動し、梅田正徳(メンフィスに参加した日本人デザイナー)、ザハ・ハディドなど、国内外の有名デザイナーの依頼を受け、数々の家具を製作してきています。

宮本茂紀氏ご本人写真。

よくイタリアは職人が優秀だという話を耳にします。宮本氏も30代の頃イタリアで研修をうけ、デザイナーの理想と製造現場の現実の橋渡しをする”モデラー”の仕事を目の当たりにして、帰国後日本でいち早く「家具モデラー」と名乗ったのだそうです。
この展示会の宮本氏の仕事と、その経緯をみてようやくイタリアの職人がどうすごいのか、ということが理解できた気がします。
デザイナーも当然、物性や構造の事をある程度理解していないといけませんが、対象物が多岐に渡るため完璧に把握するのは難しいことです。高度な機械や家電などはやはりエンジニアの協力なくしては実現しませんし、家具作りもやはり人が手作りするものなだけに、本当に絵に描いたような細い脚ハリのあるクッションができるのか?というところで”家具モデラー”の尽力が不可欠なのです。

”本当に良いもの”を遺していく努力

最新の仕事ではグラフィックデザイナーの佐藤卓氏のデザインしたソファを製作しています。このソファは、合板やウレタンフォームでつくられた低価格品が増加する昨今に争うように”人の一生より長い寿命を持つソファ”というイメージで伝統技術の継承、環境への配慮といったテーマで製作されました。木部は日本の木組みの技術を用いて、釘を一本も使用していないとか。

現代では大量生産、コストダウンによる安い家具が幅を利かせています。確かに高価な家具はなかなか手が出せませんし、安物でも用が足りるなら、とついつい安物ばかり揃えてしまいますが、その結果多くの人が本当に使い心地のよい家具や、上質な座り心地というものを私たちは知らずに生活しているのかもしれません。
そういう私はお恥ずかしい話ですが、普段パイプ椅子で作業を行っています。やはり私も作業用に良い椅子を買わなければいけないのかもしれません…。

最新の仕事、佐藤卓氏デザインのソファ
今どき珍しいバネ式クッション。こうやって固定しているのか、と感心。100%手作業です。
クッション材が何層もあります。シンプルに見えても実は奥が深い椅子作り。

宮本氏は依頼仕事だけでなく、オリジナルで家具のデザインも行なっています。
BOSCOシリーズと名付けられたこちらの椅子は素材の探求のため、同じデザインから200種類の異なる木材で製作されたそうです(贅沢!)。

宮本氏オリジナルデザインの椅子。無駄のない材料どりまで考慮してデザインされています。

映像も流されていたのですが、驚いたのは下の画像にある、バネクッションを製作する場面です。なんとバネそのものも線材を巻いてその場で製作してしまいます。そして、それらを並べて小さいコイルでつなぎ合わせて完成…という、家具ってこうやって作っているのか!という発見の連続でした。

椅子製作の様子を撮った映像もありました。あっという間にできあがります。

家具修復の仕事もされているそうです。明治村にも宮本氏の修復した家具があるそうで、今度行く機会があれば探してみようと思います。

家具修復の仕事。明治村の椅子の修復を手がけたそうです。

こちらは、社内の職人たちに家具の構造の歴史を伝える取り組みの中で製作された椅子です。先ほども書きましたが、明治辺りから現代まで、量産化の流れの中、家具作りがいかに効率化され、また同時に妥協されていったのかがこの椅子のクッション部分の断面を見るとよくわかります。

時代ごとに変遷してきた椅子の構造を実際に製作して現代の職人に伝える取り組み。

教育者としての取り組み

宮本氏は技術の継承のため、積極的に次世代の指導を行ってきました。「Mプロジェクト」という各美大の学生が往年の家具デザインをリデザインし一脚を製作する活動が紹介されていますが、なんと費用もすべて宮本氏が負担するという学生ならば夢のようなプロジェクトです。私もこんな本格的な家具作りを経験してみたかったです。

当時の学生作品
椅子の図面。家電などの設計で見る図面とはまた随分違います。

おまけ:そういえば私も昔、椅子を製作したような…

蛇足ですが、こちらは私が学生時代課題でデザイン・製作した椅子。
折りたたんで一枚の板のようになるロッキングチェアです。
一見ちゃんとしているように見えますが、今見返すとまだまだだなぁとため息が出ます…。お金がないので制作費を4000¥に収めた点が一番評価できるポイントです(笑)。

私が学生の頃製作した椅子のことを思い出しました。

椅子の神様 宮本茂紀の仕事

会期<大阪>2019年6月7日(金)~8月20日(火)
<東京>2019年9月5日(木)~11月23日(土)
開館時間<大阪>10:00~17:00
<東京>10:00~18:00
休館日<大阪>水曜日、8/13-16
<東京>水曜日
入場料無料
企画LIXILギャラリー企画委員会
制作株式会社LIXIL
協力五反田製作所グループ、埼玉県立近代美術館、博物館 明治村、藤原敬介、株式会社ワイス・ワイス
展示デザイン+建築設計 田代朋彦
展示グラフィックHORIdesign 堀 恭子

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愛知名古屋で活動するプロダクトデザイナー。家電、スーツケース、蛇口、コンピュータ周辺機器、クレーンなど幅広い分野を経験。