みなさんは「板金」にどんなイメージをお持ちですか?なんだか冷たくて、無骨で、オシャレじゃないなんて思っていませんか?でも実際はそんなことありませんよ。今回は、オシャレでクールでキュートな板金デザインを紹介します。
板金って何?まずはその特長を知ろう。
板金。それは板状に加工された金属のこと。主に型費をかけられない小ロット生産品や大型の製品、あるいは耐荷重性、堅牢性、対候性、耐薬品性などを求められる製品に多様される素材です。金属の塊(インゴット)に対して、軽量で圧倒的に扱いやすく、加工しやすく、無駄が少ない、つまりコストも低いという利点があります。
しかしながら、造形の自由度という点では、樹脂の射出成型、木材の切削加工、鋳物、ダイキャストと比べるとやや劣る素材でもあります。自動車のボディのようにプレス加工によって3次元曲面をつくることは可能ですが、コストが高く小ロット品では現実的ではありません。もっと言えば、2次曲面ですら治具を必要とするため、多くの製品で2次元的な「曲げ」だけで工夫を凝らした造形が行われています。
しかし、作り手の立場からすると制約が多いからこそ面白いとも言えます。板金曲げデザインの沼は深い…。
板金でもちょっとした工夫でカッコよくできる。
板金によるプロダクトや筐体は大抵”無骨な箱”になりがちですが、ちょっとした工夫で見違えるようにカッコよくすることも可能です。その例をいくつかご紹介します。
これらはゴミ箱です。上のプロダクトは、天面を斜めのラインにしてリズムをつくっています。その他の部分はなるべくボルトなどを見せないよう気をつかい、金属の素材感を際立たせています。清潔感すら感じられます。下のものは、斜めの折りで退屈さを感じさせず、とても立体的で堀の深い表情を与えられています。たかが、街角のゴミ箱でも少し気をつかえばこんなにカッコよくなるんですね。
大型のプロダクトでは、板金を採用したほうがコスト的に有利です。このプロダクトでは単純な箱にせず、多面体の造形で金属の塊のような強烈なボリューム感を出しています。ちなみにこちらはコルゲートパイプ製造用の機械だそうです。
板金は、平滑で広い面を活かして、グラフィック表現をするのにも向いています。パンチング以外にも、レーザーカットなどで細かい加工を施すことも可能です。丈夫な金属だからこそ繊細な表現ができるというのがポイントです。また、熱に強いため照明と組み合わせることでさらに魅力的なデザインになります。
さらにスゴイ。板金加工の技術。
制約が多いとはいいましたが、工夫次第でここまでできるという例をお見せします。やはり、折るだけではどうしてもカクカクとした硬い印象になりがちですが、治具を用いれば柔らかい印象の丸みを表現することも可能です。
驚いたことに、その気になれば球面状のコーナーだってできるのです。板金の端と端がピタッと揃うのがとても気持ちいいですね。相当に精度が良くなければできない技です。
この例は板金の例えとしてはやや不適切かもしれませんが、工夫次第で角パイプをベンディングの治具なしに自由に曲げることもできます。
板金ならではの魅力…美しい平面
板金だからこそできる表現もあります。板金によるデザインを調べていると、実は紙の性質によく似ているなと感じます。折りはもちろん、レーザーカットやパンチングによる穴あけ加工は切り絵や伊勢型紙を彷彿とさせます。しかし、決定的に違うのはその強度です。板金は紙や樹脂のようにたわみにくく、非常に綺麗な平面を表現できます。先ほども言及しましたが、大型の機械などではその長所を活かした、シンプルでボクシーな造形が多用されています。とくに工場のラインなどで長大な平面が連続していたりするのは壮観です。ビルの壁面を想像していただければわかりやすいですね。
板金ならではの魅力…軽やかさ
また、強度があるということは薄くできるということでもあります。板金は木や樹脂、ダイキャストの金属にはできない、軽やかな表現ができるのです。しかも、本当はけっこう重いというところが矛盾していて面白いですね。
良いとか悪いとかじゃない!素材はそれ自体に魅力がある。
以上、いろいろと魅力的な板金デザインを紹介してきた上でちゃぶ台返しをするようですが、洗練されていてオシャレなのが絶対的に良しとされることなのか?という視点もあって然るべきだと私は思います。むしろとことん無骨で不器用、ワイルド!だからこそカッコいい!と感じることもあります。いわゆる”デザイン”されてないほうがそのものの本質をよく表わしていて好ましいとさえ思えてしまったりするものです。やはりデザインって奥深いですね…。