FAR EAST GADGET MAGAZINE

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BUILDING Kの模型
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ちのかたち 藤村龍至展 「プロセス」を展示すること

藤村龍至展 ちのかたち——建築的思考のプロトタイプとその応用 愛知巡回展に行ってきました。
”結果”ではなく、そこにたどり着くまでの”過程”に焦点をあてた、ちょっとユニークな展示会です。
そしてその思考の”実践”として、学生がこの展示会場を設計しています。

会場エントランス

プロセスを展示する

BUILDING Kの模型。大量の模型により思考が徐々に深化していくのが汲み取れます。

この展示会の特徴は、模型がメイン、というかほぼ模型しかないという点です。
普通の作品展であれば、完成した建築の写真を何枚か掲示しているものですが、流されている映像に映る建築のディティールの他に、完成したものを表現するものはありません。
あくまで「結果」どうなったのか、ではなく思考の「過程」を見せる展示なのです。

いわば、考えることを考えるということでしょうか。

会場壁面には思考の過程をより可視化するための試みであると言及されていました。ひとつの課題にたいして、ひとつの答えを出すことの連続が結果として膨大な模型になり、それを時系列に並べると思考の過程が浮かび上がるということです。

キャプションの内容も、あくまで当時の思考をなぞるような語り口で、見るものを説得しようという姿勢ではありません。
とある作品の説明では、直前の設計を引き合いに出し「習作」と表現しているのには思わずにやりとしてしまいました。

近年、3Dプリンタの普及などで建築の世界でも試作のプロセスに大きな変化が起こるのではないかと言われていました。
しかし、藤村氏の制作過程は従来から続くスチレンボードによる手作りの模型作りだったのが印象的です。
たしかに、CADで設計し3Dプリンターで夜中の間に出力というのは圧倒的に時間短縮になるでしょうし、コストダウンにもなります。しかしながら、実際に手を動かすことによる発想への刺激というのはなかなか他のやり方では代替できないもののようです。
それに、結局クライアントに見せるのであれば、考えた過程がそのまま形として残っていくほうが逆に効率的なようにも思えます。

会場の空間は学生たちの設計

もうひとつ、際立っていたのは会場の空間構成です。
四角く区切った日常的な空間ではなく、三角を水平方向にも垂直方向にも重ね、ブール演算したような空間で適度に区切りつつも滑らかに連続して引き込まれていく巧みな空間構成でした。
これを設計施工したのはなんと学生たちだそうです。
空間コースの学生たちが、藤村氏の手法をトレースし学習しながらアイディアを展開し、教員や藤村氏の助言を受けながらひとつに収束され完成させたものです。
非常に良い試みだと感じました。
また学内にパネルの加工や設営ができる設備があることも羨ましく思います。

展示の最後に会場の設計プロセスを紹介しています。
展示会場最終案模型
模型をスマートフォンで接写した様子。奥まで見通せ、会場エントランス(左)期待をあおりつつも他の来場者の視線は遮る巧みな高さ設定の壁面。
会場は淑徳大学長久手キャンパス シーラカンスアンドアソシエイツの設計だそうです。

「藤村龍至展 ちのかたち——建築的思考のプロトタイプとその応用」愛知巡回展

開館日時:2019年8月31日(土)〜9月15日(日) 10:00-19:00 入場無料
会  場:愛知淑徳大学 長久手キャンパス 8号棟5階プレゼンテーションルーム
主催:愛知淑徳大学 創造表現学部 建築・インテリアデザイン専攻 愛知淑徳大学創造表現学会
協力:TOTOギャラリー・間、(株)アケボノアートワークス

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愛知名古屋で活動するプロダクトデザイナー。家電、スーツケース、蛇口、コンピュータ周辺機器、クレーンなど幅広い分野を経験。