FAR EAST GADGET MAGAZINE

プロダクトデザイナーによるコンセプチュアルなプロダクトデザインを紹介するメディア

コラム 素材・加工辞典

素材・加工辞典2. プロダクトデザインにおける印刷手法まとめ

プロダクトデザイナーにとってはやはり立体表現こそが本分であり、いちばんの腕の見せ所です。新人の頃は、未熟な立体表現の技術を補うようにグラフィック的な表現に走ると、安易だといって熟練のデザイナーからダメ出しを受けたりすることもありました…。
しかし、それはプロダクトデザイナーとしてのいわば矜持の話。決してグラフィック表現が劣っているとか、そういうことではありません。むしろ、うまくグラフィック表現を活用することは様々なメリットがあります。印刷は低コストでかつリッチな表現ができますし、多品種少量生産などバリエーション展開、修正を容易にします。
今回はそんな、製品開発のための印刷知識をまとめてみました。まぁ、印刷技術は本当にたくさんあるので私もすべては把握しきれません。ですので、今回は主なものだけを紹介します。

近年のスニーカーは印刷技術を上手に活用している好例。

シルクスクリーン印刷

もっともよく使われる印刷技術です。網(スクリーン)に印刷箇所以外をマスキングし、その上からインクを置いて刷ります。

シルクスクリーン印刷の原理図 ㈱ライラスより引用

主にロゴやスイッチ類の刻印などに使用されています。キーボードの文字の刻印にも使用されますが、摩耗の激しい場所にはさらに透明のトップコートを印刷して保護することがあります。基本的に印刷対象は平面かおおらかな曲面で大きな突起物に周辺を囲まれていないことが条件です。そうでないと、スクリーンが印刷面に届かないためですね。

身の回りにある製品から例を探してみました。これはモバイルバッテリー。

イニシャルコストとして版代がかかりますが手作業で行う小ロットにも、印刷機で行う大ロットにも対応できます。1版につき一色で、色数が増えればその分コストがかかるので、主に一色刷りの用途に多用されます。

高度に自動化されたスクリーン印刷はこんな様子だそうです。

㈱サイプラの動画を引用

パッド印刷

シリコンのパッドを使用して印刷する方法です。平面に一旦印刷パターンを配置し、パッドを当てインクを拾い、それを印刷対象に押し付けるようにして印刷します。

㈱ミノグループの動画を引用

シルク印刷では対応できないような深さのある曲面であったり、入り組んだ場所への印刷が得意です。ボールの印刷によく使用されているほか、炊飯器の釜の内側の印刷、リモコンのボタンなどに多用されています。

こちらも自宅にあった炊飯器のお釜です。

転写

フィルムに載せた印刷を印刷対象にのせてフィルムを剥がし、印刷だけを残す方法を転写といいます。熱で加工する熱転写(ホットスタンプ)、熱をかけずに行うコールド転写、金属の箔を貼り付ける箔押しなど様々あります。

ホットスタンプの原理図 ㈱イルミネーションより引用
ロゴを箔押しにして高級感を演出するデザイン。これはカメラのレンズカバー。

インモールド成形

インモールド成形も転写のひとつですが、印刷と成形を同時に行います。印刷がのったフィルムを金型にはさみこみ、そこに射出成形する方法です。脱型するときにフィルムがはがれ、転写されます。

インモールド成形のしくみ | 高圧化工㈱のウェブサイトより引用

自動車の内装部品によく使用されています。塗装したようなリアルな質感を出せるのが特長ですが、なによりのメリットは複雑なパターンをのせることができるため、複数のパーツが組み合わさったようなデザインをひとつの成形品で表現できてしまうことです。型自体は割高ですが、量産するなら圧倒的にコストダウンできるわけです。

㈱サンラベルのウェブサイトより引用

フィルムインサート成形

型にフィルムを挟み込むのはインモールド成形と同様ですが、フィルム自体も成形品に残るのが違いです。クリアーフィルムの裏面に印刷されるため摩耗に強いです。
専用の型が必要なため普通の金型より割高になります。精緻さを求める場合は、フィルムを先に真空成形してから金型に投入します。

フィルムインサート成形のしくみ | 第一プラスチックのウェブサイトより引用

この方法では、一部を真空成形部分のみとすることでパネル一体型のスイッチなどに利用されています。洗濯機や炊飯器の操作部分などが代表例です。部品点数削減、防水などのメリットがあります。

自宅の洗濯機。

水圧転写

水面に浮かべたインクに上から印刷対象をそっとのせる方法です。正確な位置決めは難しいですが回り込んだような立体的な印刷が可能です。自動車の外装部品など、広い面があるものに使用される傾向があります。機械加工もありますが、職人がひとつひとつ加工することで小ロットにも対応しています。

ZERO HALLIBURTON | Meteor Limited Edition Carry-On

インクジェット印刷

家庭用のインクジェットプリントと同じ要領です。版が不要なため初期費用は抑えられますが、印刷スピードは比較的遅く、多品種小ロット生産向きです。近年はファブカフェなどでよく見られるようになりました。さらには、インクを厚盛りすることで立体的な表現をする試みもあります。将来的には量産品にも実用化されるかもしれません。

ローランド ディー.ジー.㈱ | VersaUV LEF-20
シボなどのテクスチャをインクジェット印刷で実現しています。

レーザー彫刻

印刷とは違いますが、物体の表面をレーザーで傷つけることで直接彫り込む方法です。iPhoneの背面の文字などがレーザー彫刻で加工されています。物性上は磨耗に強いのと、塗料などがいらないので廃棄物がほぼ発生しないことが特長です。版が不要でデータさえあればよいので、ロット数1からでも対応できます。シリアルナンバーを刻印するのによく使用されます。

レーザー彫刻の様子 | トロテック・レーザー・ジャパン㈱の動画を引用

色は現状あまり自由になりませんが、レーザーを細かく調整して、特定の波長を反射するように刻印することで金属に着色(?)する画期的な方法も研究されています。

塗ってないのにカラフルに!! 驚きのレーザーカラーマーキング技術とは | Optinews

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愛知名古屋で活動するプロダクトデザイナー。家電、スーツケース、蛇口、コンピュータ周辺機器、クレーンなど幅広い分野を経験。