ファーイーストガジェットは偶然にも今年2回のクラウドファンディングを経験しました。
一つ目はデザイナーとしてお手伝いした「セットネック」、二つ目は私たち自身がクラファンに挑戦した「デスクエニウェア」です。
今回は一つ目の事例とともにクラファンを考えている方に向けて、デザイナーとの付き合い方について紹介したいと思います。
Q:どんなプロジェクト?
A:本格おうち整体「セットネック」
最初にクラウドファンディング(以下、クラファン)に携わるきっかけになったのは、名古屋市にある、整骨院をはじめ整体に係る事業を行っているマークセラピー研究所様からのご依頼です。その経緯については以下の記事をご参照ください。
【デザイン事例】本格おうち整体アイテム「setneck」 マークセラピー研究所
コロナ禍の社会情勢で、家庭でセルフケアできるという商品性は非常にニーズがあり、これならイケるだろうと安心してお手伝いすることができました。
結論から言えば、セットネックは約790万円を調達することに成功しました。
Q:どのサービスでやったの?
A:Makuake
クラファンのサービスは数多ありますが、プロダクトに強い、シェアが一番大きいという理由から、このプロジェクトではMakuakeで行うことになりました。
また、Makuakeはウェブ広告を自前で出していたり、キュレーターからの指導もあるなど、支援が手厚いという印象でした。(実際は他のクラファンサービスもウェブ広告は出していますし、支援が特別手厚いというわけでも無さそうですが)
それにMakuakeは応援購入リピーターが多く、その点、サイト外からアクセス流入を稼ぐなどのPRが得意でない企業にとってはありがたいです。
Q:何をやったの?
A:クリエイティブ全般、一部販促までワンストップでお手伝いしました。
お手伝いしたのは、ざっと挙げると以下のメニューです。
- プロダクトデザイン
- 商品ロゴデザイン
- パッケージデザイン
- 説明書デザイン
- 商品ページ原稿
- キャッチコピー
- 商品/シーン撮影
- 画像/イラスト制作
- 動画制作
- プレスリリース原稿
一番得意なのはもちろんプロダクトをはじめとするデザインですが、撮影や画像のレタッチ、さらには商品説明の原稿やプレスリリース原稿までお請けできるのは、元々オリジナルプロダクトを通して自分たちで全部手作りしてきた経験があったからです。
とくに、クラファン時点ではそもそも実際の製品がないということもあり得ます。クラファンの性質上、量産品と異なる仕様で実行することも許容されていはいますが、やはりトラブルの元になりますので量産品に近いイメージで公開するのは最低限やっておきたいですよね。
マークセラピー研究所様のプロジェクトでも、実は撮影に使用したのは試作型で製作した試作品です。表面が荒かったり型の分割が目立つのをフォトレタッチで修正しました。さらには、どういう形をしたものなのかしっかり伝えるために構図やライティングなどあらゆるノウハウや技術を詰め込んでいます。
写真といっても対象によって様々です。人物、風景、食べ物…それぞれに得意なプロ写真家がいます。そういう意味では、まさにその被写体である製品のデザインを手掛けた本人が撮るのが一番「わかってる」写真が撮れると言えますし、修正指示なども圧倒的に少ないと思います。大抵撮影は1日で撮り切ってしまうものですから、製品の魅力を十分に共有できていないと欲しいカットが撮れていないといった悲劇が起きるかもしれません。
Q:クラファンの成功で利益をあげられる?
A:難しいです。
まず、調達した全額が手に入るわけではありません。クラファンサイトのの決済手数料とプラットフォームサービス料でだいたい20%近く引かれます。またプロダクトの場合、支援者は見返りとしてその商品を入手するわけですが(実質的に先行予約購入)、待たせる分なんらか特典をつけています。それが大抵は大幅なディスカウントです。さらに送料も込みの価格だったりしますので、どれだけの支援が集まったとしてもほとんど利益を出すのは難しいです。予想以上に売れてようやく開発費が賄える程度にとらえておいたほうが良いと思います。
Q:クラファンするメリットある?
A:あります!
大変でそれなりにお金もかかるのに利益が出ないならクラファンなんて必要ないんじゃないの?と思うこともあるでしょう。それについては、視点を変えてとらえるべきだと思います。
クラファンの成功をゴールに設定してはいけないということです。あくまでその先の一般販売を少しでも有利にするためのものだと考えるのが正しい見方だと思います。実際、クラファンをすると多くのバイヤーからオファーが来ます。自分から未知の小売業者を探してアプローチするのは大変なうえに成功率も低いでしょう。また、どれだけ売れるか不明な状態の商品を広く知らしめるために多大な広告費をかけたりするのは零細企業などにとってはリスキーで現実的ではありません。クラファンは低リスクで実行できるコスパの高いPR活動だととらえるのが適切だと思います。
また、PRの質を高める効果があるのも重要なポイントです。クラファンサイトの商品ページは掲載にあたって、ページ構成のルールが決まっています。用意されているガイドラインと合わせて、指示に従って作ればある程度のクオリティに仕上がります。さらにキュレーターが添削をしてくれますので、今まで一度も商品のPRを考えたことがないといった企業にとってはこれだけでもかなりのメリットではないでしょうか。
このノウハウはクラファン後の一般販売の際にもそのまま利用できるわけですから、非常にお得だと思います。
Q:クラファンやるのにデザイナーは必要?
A:必要です!
成功しても利益が出ないなら、なるべくコストはかけたくないところですが、それでもやはりデザイナー(あるいはクリエイター)の「表現力」は不可欠だと思います。
商品ページを閲覧する人は画像や動画は見るものの、テキストはほとんど読まないと言われています。どれだけ良い文章でアピールしたところで画像が魅力的でなければ興味を持ってもらえないのです。
さらに、クラファンサイトのトップページに出るのはせいぜい一枚の小さなサムネイル画像と商品のタイトルだけです。そこでどれだけ興味を惹けるか?さらに商品ページに来た人が商品を魅力的に感じて購入してくれるか?
せっかくの良い商品でもその魅力を100%に近いレベルで表現しなければその魅力は無いのと同じになってしまいます。
また、テキストやページ構成についても、クラファンサイト側から指導があるとはいうもののそこまで丁寧にしていただけるかは千差万別のようです。デザイナーは数多の商品開発に関わり、客観的に商品の魅力をとらえることを仕事にしていますから、開発者も気づいていない商品のアピールポイントを見つけることが得意です。消費者に正しく届くPRになっているか、客観的な視点を取り入れる意味でもデザイナーの参加は転ばぬ先の杖として有意義です。
割り切りも大事
そもそも資金を調達するためにクラファンをするのに、そのためのページづくりにデザイン費用が払えるのか?という矛盾があるのは重々承知しています。
現実的な解として、先に予算を決めておいて、その費用でデザイナーがどこまでサポートできるかを相談するのが良いのではないでしょうか。
この手のものは正解がない以上、どこまでいっても完璧はあり得ません。ですから、ある程度は割り切りも必要ではないかと思います。クラファン終了後の一般販売で利益を上げてからデザイナーに追加の依頼をし、クオリティアップをするというのもアリです。
案ずるより産むが易し、行動しなければ始まらない。とりあえずできる範囲で始めてみてはいかがでしょうか?