FAR EAST GADGET MAGAZINE

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コラム プロダクトデザイン 製品開発リポート

求められる「初速」。立ち上げ前に知っておきたかったことまとめ – クラウドファンディング体験記

ずいぶん時間が経ってしまいましたが、私たちが関わったクラファン案件としては2回目、そしてファーイーストガジェット名義では初めて行ったクラウドファンディング(以下、クラファン)についての体験記をまとめておきます。実際にプロジェクトを立ち上げるまで中の人とも関わることはなく、やらないとわからなかったことや反省は多々あります。今後クラファンを検討している方の参考になればとも思い、その備忘録です。

>1回目のクラファン案件の記事はこちら
デザイナーは転ばぬ先の杖。クラウドファンディング体験記

イニシャルコスト回収と販売力頼りで…クラファンにチャレンジ

ファーイーストガジェットは初のクラファンにチャレンジするプロダクトとして、1年がかりで開発したオリジナルプロダクトであるモバイルワークデスク「デスクエニウェア」をMakuakeでプロジェクト公開しました。2021年4月から5月の1ヶ月間が先行販売期間となりました。

デスクエニウェアについての詳細は以下のリンクをご参照ください。

>デスクエニウェア商品ページ(一般販売中)

>当時のMakuakeプロジェクトページはこちら

元々このプロダクト、クラファンは検討していたものの、前提とはしていませんでした。

しかし、開発の早い段階で今回はそれなりのロット・それなりのコストをかけて製造が必要ということに。これまでファーイーストガジェットは自分達のプロダクトを直販サイト中心に販売してきましたが、それはあくまでオンデマンドに近い形で製造が効率化できたプロダクトで、在庫やイニシャルコストといった視点がほぼ不要だったからでした。今回は在庫リスク・イニシャルコストが無視できない規模で、自分たちの販売チャネルだけではその回収にどれだけ時間がかかるか…という状態になりました。

というわけで、私たちは結果Makuakeでのクラファンを決意することに。その理由はざっくり下記の2つでした。しかししかし、これは当たらずも遠からず。必ずしも想像通りには行かなかったなと今振り返ると思います。

  • 製品の製造前にイニシャルコストが回収できること(原始的なクラファンのメリット)。
  • モールとして見た時のMakuakeのユーザー層と販売ボリューム(Makuakeならではの強み)。

「初速がすべて。」キュレーターには何を言われる?

というわけで、クラファン立ち上げを決意し、Makuakeに問い合わせ。その後はいくつかのやりとりを経て担当者(キュレーター)がつき、公開に向けて走り出すことになります。

ファイーストガジェットはクライアントのクラファン支援を行うくらいなので、製品開発・製造・出荷に関してはもちろん、販売に必要なプロジェクトの設定周りやページ作成、それに必要なクリエイティブ(撮影・画像制作・ライティングなど)も当然、自前でやっています。キュレーターにはさまざまなアドバイスを直接いただくことになりました。

これらが、プロジェクトを始めないと知り得ないコトだらけ。事前に知っておきたかったなと今でも思い…この記事に至ります。

「いくつ売れます?」地道な営業は不可避。求められる独自のマーケティング

クラファンをやってみて、一番思ってたのと違うと感じたのがこれかもしれません。端的に言えば、クラファン成功の秘訣は初速と言われます。販売開始から数日間のごく初期にどれだけ多くの支援額を達成できたかでその後の伸びが大きく変わる仕組みを持っています(詳しい仕組みは不明)。その初速を作るのは、基本的にはクラファンのプラットフォーム側ではなく、私たちクラファンの実行者であるということです。正直、出品を認められたらMakuakeが一蓮托生となって売ってくれると思ってました笑。スミマセン。

曰く、投資が集まるプロジェクトほど、人気のプロジェクトとしてMakuake内外で露出し、より投資を集める流れができているということです。私たちが1回目に関わったプロダクトでわかる通りですが、Makuakeが売れると理解したものはMakuakeが最大限売れるよう引っ張ってくれます。だから初動は頼むね、ということです。実際に、どの程度の販売が期待できるか担当者から事前に問われます。製品そのものの魅力も必要ですが、実行者セルフの販売ポテンシャルがそれ以上に要求されます。

どの程度の方と購入の話がついている、どの程度の露出の予定がある、など期待できる販売量を実現するための営業状況やプロモーションの見通しを一つ一つ確認されます。身の回りの人には公開と同時に買っていただけるよう、事前にお願いすることも強くすすめられます。

とはいっても、今回は自分達のプロダクトでもあり、必要のない方に押し付けることはしたくなかったので、個人にもメディアにも、商品を知っていただく、魅力を伝える、できるだけ体験いただく、期待できたら・必要と思ったら買ってください、ということに徹しました。個人の関係性で応援してくれるのは大変ありがたいですが、欲しくないプロダクトまで無理して買っていただくようなことになるのは、やはり心苦しいし、買って頂かなくても、応援の気持ちやその先のどなたかにつないでいただけるだけで十分だと思っていました。

(結果、今回のクラファンは量で言えば自慢できるような爆発力は出せなかったとも言いますが…)

リターン設定も努力を。それなりのディスカウントとできるだけ早い出荷

「初速」とその後の販売スピードを維持をするため、リターンの設定を適切にすることもキュレーターから強く求められることの一つです。

まずはお得感を演出し、早期購入を促すこと。クラファンでは”先着10名30%オフ”のような、早期購入割引が一般化しています。実は小人数限定の大幅割引枠は、前段で書いたような周囲の関係者用に設けている場合も多いようです。

ただこれ、あらかじめ割引を前提とした価格設定ならそれも可能ですが、デスクエニウェアに関して言えば初めからどなたもできるだけ価格差が生じないよう、利益も最小幅で価格設定し、それなりに製造コストをかけてしまったため後から思い切った値下げは不可能でした。それでも1円でも値下げをというアドバイスもあり、約3%程度、500円値下げしたのですが、効果はどの程度だったかはわかりません。

Makuakeで販売を終えてから一定期間は他のチャネルで一般販売時も先行販売時より安く価格を設定できないなど、さまざまなネックもあります。上記、さまざまな事情を見越したプライス設定が必要です。

そしてリターン(出荷)の開始はできるだけ早く、2ヶ月程度が求められること。だいたいプロジェクトは先行販売終了から2か月後程度でリターン開始できるようスケジュールの設定を推奨されます。元々、プロジェクト終了後半年以内にリターンは完了しなければいけない決まりもありました。半年は待たせすぎということですね。

一般のECサイトからすれば2ヶ月でもよく待ってくれるなというところですが、しかし、元々イニシャルコストを目的としたクラファンの原理から言えばプロジェクト終了から製造スタートして2カ月後の納品になるのは現実的に難しいです。実際、デスクエニウェアもこれを実現するため、プロジェクト期間中に見込の数量で見切り発車で製造発注しました(つまり、クラファンでイニシャルコスト回収とは言いましたがイニシャルは先払いです)。

デスクエニウェアは縫製&木工品で、大量生産しやすいものではないので、後から購入した人ほど期間を区切ってお届けを遅くせざるを得ませんでした。デリバリーがもっと早くなれば、クラファン時により多くの購入が得られていただろうとは思います。商品が調達できることが前提の場合は、表示は早ければ早いほど良いかと思います。

最も指摘されるのはサムネ画像。事前テストで確度を高めるなど工夫を

Webマーケの一般にも言えることですが、クラファンサイトではたくさん並ぶ商品のサムネイル画像の中からどれだけ興味を惹き、クリックさせて商品ページに誘導できるかが勝負です。バナーとタイトルで簡潔にわかりやすく、かつ興味を惹く表現を心がける必要があります。キュレーターは商品ページなどさまざまなクリエイティブをチェックしますが、経験に基づいたアドバイスや指摘をし、最も改善を求めてくるのはこのサムネ画像になります。

基本的にはキュレーターとプロジェクト実行者の肌感覚でこれを改善していくことになりますが、私たちはプロジェクト公開前に、ティザーサイト(商品公開前に情報を小出しにして興味をひくための手法)を用意し、このサイトにリンクするWeb広告を何パターンものサムネ画像とし、そのアクセスした人の数や属性をもとに採用するデザイン・キャッチコピー案を決めました。実際のビジターの反応がわかるわけですから、キュレーターとのディスカッションにも有効だったと思います。

ただ、これは公開に向けたスケジュールの中でサムネ修正を提案された中での出来事で、土壇場での実施となったため広告のタイミングがとても難しかったです。あらかじめ想定されたスケジュールを組むことをおすすめします。

ちなみに…目標金額、みんな低くない?その理由

目標金額をあえて低く設定することで、即目標を達成し、達成率の数字を上げ、とても人気があるような印象を与えるテクニックがあります。というか、もはや一般的になっています。特にこれ自体の達成度合いが露出に影響することはないようですが、実際にSuccess済みのプロジェクトの方が絶対に製品が届くという安心感も生まれ後続も購入しやすいため、低く設定することはキュレーターからもおすすめされます。そういうわけで、目標金額の設定は形骸化とも言えるかも…本当の目標金額は別にあるわけですが、それが達成できなければプロジェクト凍結!とはなかなかできません。すでに相当な投資を行っていますから、クラファンが失敗したって後戻りできないのが普通です。

ちなみに、Successしたと見えるだけで知人はみんな「おめでとう!」と言ってくれます。励ましは本当にありがたいので「ありがとう!」と言いつつも、実行者はその上に本当の目標があって内心まだハラハラしています笑。

結果はサクセス。したけど、残る反省

こちらはクラファンの先行販売期間終了後のキャプチャです。結果、めでたく100人近くの方に熱いご支援をいただきました。本当に感謝が尽きません。

達成率も目標比1631%のSuccess! ととても華々しく見えます。とはいえ、これはこの数値では計り知れず、反省も多く残る結果となりました。

わかったこと&反省点

クラファンはただの「仕組み」、それ以上でも以下でもない

やる前は、クラファンの力を借りれば自分たちだけで売るよりたくさん売れるんだろうと漠然と思っていました。
しかし進めていくうちに、クラファンサイトというのはあくまでプラットフォーム、お金を集める仕組みと、お金が集まるプロジェクトにアクセルをかける仕組みが用意されているだけなんだと痛感しました。キュレーターがついているとはいえ、これを生かすも殺すも結局は実行者の「初速」を作る力と努力、腹のくくり方次第です。

わが身を振り返ってみると、元々のクラファンに対するイメージは今まで存在しなかった商品をみんなの支援で実現するプラットフォームだった時代から、共同購入サイトといった顔もあるサービスに変わりつつあることに対する変化を理解しきれていなかったなと。それが次回の反省点に直結しているのかなという印象です。逆に、現在のサービス動向にぴったりはまればうまくいく可能性も高くなるのでしょう。

「初速」の伸び悩みを巻き返すことができるか?私たちの場合

公開当初はクラファンサイトにも新着掲載され、目立つところに表示されたくさんのページビューがありますが、当然ながら日に日にどんどん減っていきます。だからこそ最初の「初速」の山をどれだけ大きくできるかが肝心です。

スタートダッシュを失敗してしまった場合、巻き返しは不可能なのでしょうか?私たちの場合、独自のPRを通して、新着での誘導の優遇が終わった後もメディア記事掲載などによって外部からの流入を増やすことに成功しましたが、その効果はサイト内部の誘導力と比較すれば限定的でした。

実際、デスクエニウェアを購入した人の半数以上は、おそらくこれまでにMakuakeで何らかの商品を購入しており、今回もその習慣でサイトを巡回して発見いただいたであろうリピーターでした。全く知り得ないブランドのプロダクトのはずが、クラファンのリピーターの方の購買意欲にはとても驚きました。これはまさしく大手クラファンの強みですね。

公開タイミングはキュレーターと密に調整を。他プロジェクトの影響も

前段の、ティザーから本公開まで時間が経ちすぎた原因は、クラファン特有(?)のスケジュール管理の難しさにありました。一度商品ページを完成させてから、サイト側のチェックがあり、その修正が済むと晴れて公開となりますが、先方でその日予定されているプロジェクトの掲載量などサイト側の都合もあり、こちらがグズグズしていると公開日がどんどん先延ばしになってしまいます。クラファンサイトに声をかける前に、事前に諸々が用意できていないと計画通りのスケジュールで進行するのは難しそうです。しかし、そこまで用意周到にできるかというと難しい気もしますが…

ディスカウントの要・不要は可能な割引率次第かも

クラファンでは”先着10名30%オフ”のような、早期購入割引が一般化しています。利幅の大きい商品ならそれも可能ですが、デスクエニウェアに関して言えばほとんど値下げは不可能でした。キュレーターからのアドバイスもあり、500円だけ値下げしたのですが、逆に価格比で言えば割高感が出てしまった気もします。

うまくいっているプロジェクトの中には、価格は一律で、出荷タイミングの早い遅いのみでリターンを設定しているケースも見かけました。

2~30%も値下げしてはうまく価格設定しない限り利益がほとんどなくなります(Makuake側の取り分も大きいので)が、販売数はその分伸びたでしょう。体力のある企業なら、クラファン後の受注狙いで、バイヤーからの注目を集めるための値下げ戦略もアリかと思います。

クラファンの「先」を見すえることがもっとも大切。適切にコストをかけるべし

クラファンを行うに当たっては商品画像の用意やコピーライティングなど、人的、金銭的リソースをそれなりに割く必要があります。自社リソースがなく外注が必要など、中小企業や体力のない組織にとってはかなり重い負担です。場合によっては、商品開発以上にコストがかかることもあるでしょう。

それらを自前で用意したり簡単にすませ、極々低コストに抑えてクラファンに臨んで成功している例もありますが、やはりおすすめできません。なぜなら、卸売にしろ、ECサイトで売るにしろ、いずれクラファン後にしっかりした宣材写真やコピーライティングは必要になるからです。もう一度コストが掛かってしまうなら、クラファン後も使用する素材を用意するつもりで取り組んだほうが断然良いです。

逆に、クラファンの成功にフォーカスしすぎるの良くありません。一部の隙もなく完璧に仕上げても不発に終わるプロジェクトも数多あります。そうなるともう目も当てられません。あくまでクラファンの先にある一般市場での取り扱いを念頭に、ある程度の金額を達成したならばそれ以上一喜一憂せず次の展開に注力すべきだと思います。

華々しく売れなくても商品の魅力が伝われば、その後のメリットは大きい

デスクエニウェアはクラファン上では華々しく成功したとはいえない結果ですが、プロジェクト終了から1年近く経った後、現在に至っても多数のメディア掲載をいただいたり、現在は複数社と卸売の契約を結ぶことができました。バイヤーの皆様には、クラファンは次の商品発見のチャネルとして注目されているようです。またデスクエニウェアだけでなく、他の商品を知っていただく機会にもなり、そちらの購買にもつながっています。

それなりの手間と情熱をかけ、それをクラファンを通して積極的にメッセージするプロダクトとなった結果、購入後の支援者からは引き続き熱いメッセージを頂くことも多く、そこには単なる先行販売サイトではない、クラファン特有の応援カルチャーも確かに感じることができました。

クラファンは物を通して作り手やブランドを認知させ、応援してくれるユーザーを獲得するきっかけには確実になると思います。

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