FAR EAST GADGET MAGAZINE

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プロダクトデザイン 作品集

手元を映すデジタル文具。「テモトノオトモ」

手元を映してビデオ通話できるツール「テモトノオトモ」

株式会社くむ(以下、くむ)からのご依頼で、ビデオ通話ツール「テモトノオトモ」をデザインしました。
本日よりファーイーストガジェットのストアでもお取り扱い開始です。

テモトノオトモは、A4サイズまでの紙資料や手元を映しながらノート/タブレットPCでのビデオ通話を可能にするアタッチメントです。
通話中に思いついた手書きのアイディアや、立体物を相手と手軽に共有できます。リモートワークでのミーティングの他、オンライン授業や、ワークショップなどでの活用を想定しています。

鏡を2枚組み合わせ、PC内蔵カメラに像を反射させる仕組みにより、ディスプレイ手前のおよそA4強の範囲を撮影できます。

鏡像反射でカメラに映るイメージ
カメラ画像イメージ

本体はポリプロピレンのシート材で構成されています。開封時は1枚のシート状に展開されており、折り紙のように折り曲げ組み立てることで完成します。再度展開が可能な構造で、パッケージに収納することでコンパクトに持ち運ぶことが可能です。

取付部は厚み12mmまでのノートPCディスプレイまたはタブレットPCに対応しています。(※機種によっては非対応の可能性あり)

10年越しの熱意がようやく実現

otemoto

テモトノオトモの原型は、くむの依頼で私がおよそ10年前にデザインした、iPhone4で同様のことを行う「otemoto」という製品です。商品化には至らなかったものの、こちらも思い出深い仕事でした。

このotemoto、あえてアナログな、鏡による反射で手元を映すという仕組みがユニークなデザインです。また、構造はアクリル板を3枚組み合わせるだけ。3枚の板を重ねてしまえばコンパクトになり出先でもさっと展開できるというアイディアでした。

今回のテモトノオトモは、鏡での反射によって手元を映すというコンセプトにとどまらず、その携帯性や生産可能性にいたるまで、otemotoのDNAを忠実に引き継ぎました。

開発にあたっては、まず考えていることが本当にできるのか、実証試験するところから始まりました。
いくつかの試作をつくり、私の手持ちのMacBookで検証することで原理的には可能であることが確かめられました。

鏡の配置について考えを整理するためのメモ

今度は3D-CGで詳細に検討していきました。otemotoのときも同様の手法を用いましたが、仮想空間上にカメラを設置し、モデリングした平面オブジェクトに鏡面のマテリアルを設定すると、ちゃんと現実と同様にシミュレーションが可能なんです。改めてCGってすごいですね!

CG上での詳細なシミュレーション

これでPCとカメラ、2枚の鏡の位置関係が決まりました。次にこれらをつなぐ本体部分を考えていくのですが…難しいのはここからでした。

難問をひとつずつクリアし実現した平面→立体ギミック

樹脂成形品なら、PCにはクリップ機構で留めて、ミラー素材をはめ込んで出来上がりです。しかし、それができるのはそれなりの規模の設備、販路を確立している組織に限られます。
くむは、システム開発やWEBアプリなどを開発するIT企業です。開発への熱意こそあれど、ものづくりや、物売りの経験が乏しい組織にとって、最初の一歩から莫大な初期投資をするのは現実的ではありません。開発能力、製造能力、販売力、資金力…などなどを鑑み、逆算して作り方を模索します。そこから、平面を折り紙のように折って造形するアイディアが発生しました。

最終案に至るまでのモックアップ

どこにどんな面を置いたら立体が組みあがり、かつ1枚の平面として展開できるのか、CGとスケッチでの検討を並行しながら徐々に形作っていきました。

実は、一番頑張ったポイントはPCへの固定です。あらゆる厚みのPCに確実、かつ容易に取り付けられ、さらに見た目まで美しい構造が実現できました。PCに挿し込む際に摩擦の少ないポリプロピレンの面がPC画面の裏側に当たるのですが、その後ろからスポンジが圧をかけてしっかり固定する仕組みです。ここに至るまでにたくさんのスケッチを描いて、試作して…徐々に徐々に改善していきました。
その他にも、庇状になっている部分や、小さいほうの鏡の両サイドの固定など、すべて何かを参考にしたわけではなく、オリジナルで発案した構造です。

ハンディキャップから新しいアイディアが生まれる

開発時の風景

資本が無い、実績が無い…無い無い尽くしの中で画期的なデザインを生むのは当然ながら容易なことではありません。しかし、むしろハンディキャップがあるからこそユニークなアイディアが生まれるきっかけになるとも言えます。私たちファーイーストガジェットが開発してきたブラックアウトステッカーや、デスクエニウェアも例外ではありません。
今回の「テモトノオトモ」は、ハンディキャップを製品のユニークさにつなげる、まさにそんなお仕事だったと思います。きっかけを与えてくださったくむと、向井社長に感謝です。

向井社長 株式会社くむオフィスにて

(余談)Appleも同じことを考えていた!?

2022年6月7日、Apple恒例イベントWWDCにてほんのオマケ程度に紹介されていたアクセサリとがあります。なんとテモトノオトモ同様、ビデオチャットで手元を映すためのツールでした!手元を共有したいニーズは確実にあるんだと確信する出来事でした。

嘘みたいだけどパイルダーオン。iPhoneをMacのWebカメラにできます #WWDC22

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愛知名古屋で活動するプロダクトデザイナー。家電、スーツケース、蛇口、コンピュータ周辺機器、クレーンなど幅広い分野を経験。