2020年の名古屋学芸大学卒業制作展に行ってきました。せっかくですので、プロダクト/家具系で良いと思った作品をご紹介します。学生といえども多くの気づかされることや驚きが多々あり、なかなか侮れません。
私は毎年県内のデザイン系大学の卒業制作展を見に行っています。毎年見ていると各大学の教育方針の違いや、時代とともに変化する学生の趣向など感じられて大変興味深いものがあります。今年の先鋒は学芸大。どんな内容だったのでしょうか。
軽やかさを手に入れた回るキャビネット
一つ目の作品はこれ。キャビネットの新しいスタイルを提案しています。
回転式のハンガーラックは昔から通販などでお馴染みですが、それを四角の枠で囲った構成の家具です。一人暮らし世帯などを想定していて、各面に別の機能を与え、クローゼット、化粧台、姿見などパーソナルな要素をコンパクトに一つの家具に統一するのがデザイナーの狙いです。
キャビネットをどーんと据え置くのではなく、支柱で浮かせ回転させることによってとても軽やかな家具に変貌しているのが私の感心したポイントです。空間の中で隅に追いやられていたものが壁から離れることでインテリアの構成がガラッと変わることが期待できます。4面のうち向かい合う2面が開いているのは、両側からアクセスできる利便性だけでなく、威圧感がなく開放的な視覚効果も生んでいます。「箱」ではなく「枠」になっているのが良い印象をもたらしています。
ディティールの処理は惜しいところもありますが、自分の生活に取り入れたらどうなるだろうと想像する楽しさがある提案だと思いました(私はメイクしませんが)。
ポストモダンを独自にアレンジ
次に気になったのはこの作品。
パネルに「POSTMODERN」と書いているように、エットレ・ソットサス率いるメンフィスや倉又史朗のようなポストモダンデザインそのもののキャビネットです。
今80年代が再流行していて、当時っぽいイラストやメンフィス柄などをよく見かけます。まあ、流行りなわけです。そう言ってしまえばそれまでですが、この作品のユニークな点は、プロダクトだけで完結させず、キャラクターやロゴなども合わせてひとつの世界観を構築しているところです。
大学での4年間の思い出たちをキャラクター化し、その思い出をしまうキャビネット=omoide no sumika というコンセプトワークもなかなかしっかりしています。
キャラクターがいるからこそキャビネットが魅力的に見えるという、家具という枠組みを越えた作品です。ポストモダンの表面的模倣に収束せず、しっかりオリジナルに昇華させているのが良いと感じました。
自己満足で終わらない優れた企画力
この人はピタゴラ装置が好きなんだなと一発でわかる作品です。しかし、ただの独りよがりで終わらせず、上手に客観性のある作品に仕上げています。
提案のプロダクトは、「カラクリ」の部品です。シーソーの土台やタイヤのようにして使える丸棒など、半完成品とでも言うべきものです。これが非常に絶妙で、自分で一から作るとなると大変億劫な部品を既製品として提供することによって「カラクリ」を作るハードルを下げ、挑戦してみようという気持ちを後押ししてくれます。
また、この作者も前出の方を同じく世界観を演出するのが上手です。グラフィックやネーミングもキマッていて、最近の学生の総合力の高さに驚かされます。
その他にも良作はたくさんあった(が、見切れなかった…)
プロダクト系だけでなく、その他の専攻の作品も非常にレベルが高く、毎年感心しているのですが、今年は終了間際のためほとんど見られずでした。
名古屋学芸大学はVISION展というものも近く開催されますので興味のある方はそちらに足を運んでみてはいかがでしょうか。